◆ 孤独の中の鏡面＜３＞

孤独の中の鏡面＜２＞のつづき・・・


『今夜空いてる？家に行っていい？』

玲からのメールだった。
由実とは違って絵文字も無い簡潔でシンプルな文章。


玲は２９歳でパッと見は大人しそうで小柄で物静かな感じの女性だ。
しかしながら背中には蠍のタトゥーのアンバンランスさと特殊な人格を持っている。
特殊というか反社会的というか・・・彼女はドラッグをやっているジャンキー（薬物中毒者）なのだ。
最初は２ヶ月前にデリバリーヘルスで自宅に呼んで知り合ったという何とも卑猥な出会いなのだが、たまたまその時の自分の体調が悪く、何もせずに彼女の愚痴・不満・不安の話を６０分間ただ聞いてあげていたという事が気に入られたのか、それ以来の付き合いになっている。

薬物のせいか、玲はセックス依存症にもなっていて、特定の彼氏がいるかどうかまったく知らないのだが、定期的に俺に会いに来てはドラッグを嗜みながらのプレイを求めてくる。
自分としては仕事上法律を扱う事からの抵抗感と社会的地位の保守のために薬物は行ないたくないので、頑なに断っているため彼女のみのトランス状態でのセックスだ。
普段は無口で無表情な玲だが、ドラッグが決まっている時の興奮・悶絶・よがりぶりはかなり引いてしまう所があり、正直そんな彼女の表情を見ていると萎えてしまうので、決まって挿入の際は後背位で顔を見ない様に行なう。
ただ・・・挿入前も挿入後も玲は必ずバイブやローターなどの「大人のおもちゃ」と呼ばれる器具を持参して来ては、それを俺に使わせて長時間の前戯・愛撫を求めてくるので困る。
大概がシラフで冷静な俺は器具を使いながら感じさせ、独りよがりでグロテスクとも思わせる彼女の表情をただ見つめている。

いつも思うのだが・・・これはセックスではない。
ただ俺は玲のオナニーの手伝いをしているだけだ。


玲からのメールに返事をしてから憂鬱なため息を一つついた。
だが・・特に断る理由は無かった。
時間的にも肉体的にも・・・そして精神的にも、ここの所「独りでに曲が出来ている」という怪奇現象に様々な感情が交錯していて少々憔悴している病的な状況なので、同じ病的な玲と何となく共存したかった。


自宅に戻ってからは夕食にデリバリーピザを注文し、玲が来る時間まで頼まれている楽曲作りを始めた。


次回、孤独の中の鏡面＜４＞につづく・・・